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逃亡

    祖父から3代続いていた店だったが経営は最悪になっていた。
    遊び呆けていたわけではないが自分のせいだ。
    資金繰りに苦しみ生活費にも追われた。
    中国と日本を股にかけてビジネスを展開する友人に言われた。
    「辞めちゃえばいいじゃん、うち来る?」
    一瞬、ぐらっときたが首を振る。
    「あかん、老舗の暖簾はおろせん、意地や」
    逃げたくはなかった。

    09年のエリザベス女王杯。
    競馬なんてやる余裕はないはずなのに京都競馬場に立ち寄った。
    牝馬3冠を取り逃したブエナビスタを見るためだ。
    秋華賞に負けここは必勝体制。
    スカッと勝つブエナに元気をもらおうと思った。

    順調にいっていたころを思い出す。
    まだ父も元気で母も健在だった。
    それに甘えて俺は何をしてたんだろう。
    後悔の念が襲う。
    なにかこう、もやもやしたものを晴らしたかった。

    スタートが切られた。
    曇り空の下、牝馬が走る。
    先頭に立ったのはクイーンスプマンテだ。
    テイエムプリキュアがそれに続く。
    ブエナビスタは後方に控えていた。

    ブエナ、いつ動く?
    逃げる2頭がどんどん隊列を引き離していく。
    ブエナ、どうする?
    まるで自分を問い詰めているようだ。
    気がつけば15馬身は離れている。
    ブエナ、大丈夫か?
    第3コーナーの坂の頂上でブエナが動く。
    「よし、行け!」
    思わず声が出た。
    しかし先陣を切った2頭は遥か前だった。
    場内がどよめき始めた。
    直線を向いたがまだ10馬身以上はある。
    逃げる2頭をブエナビスタが懸命に追いかける。
    そして見事クイーンスプマンテが逃げ切り
    首差しのいだテイエムプリキュアが2着。
    ブエナビスタは3着だった。

    信じられなかったがはっとした。
    逃げてもいいんだ。勝つなら。
    とどまって苦しむなら逃げて勝負してもいいじゃないか。
    
    携帯を手に取り、奴に電話した。

    G1 エリザベス女王杯 11月13日 京都競馬場 芝2200m
 
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