穴子
修平はなんとなく入った飲み屋で驚いた。
何年ぶりだろう。奈美子と再会したのだ。
彼女とは10年ちょっと前しばらく付き合っていた。
行きつけの店の人気ホステスだった。
向こうも驚いた表情だったけれどすぐに懐かしい笑顔に変わった。
結婚してその世界とはおさらば。
しばらくはメールとかもしていたけれどいつの間にか
連絡が取れなくなっていた。
水割りで乾杯。
「久しぶりね。元気だった?」
グラスを静かに鳴らす。
「驚いた。幸せに暮らしてると思ってたけど」
「離婚したの。私は結婚にむいてない」
肩をすくめて笑う。10年前となんら変わっていない仕草だ。
少し戸惑いながら飲んでいた。
その日は新しい携帯の番号を交換して店を出た。
3日後、修平の携帯が鳴った。奈美子からだった。
「驚いた?ご飯でも食べようよ。久しぶりに」
女はよくわからない。
修平は45年生きてきて今だ女心の理解が出来ない。
でも、断る理由もないので週末に約束を入れた。
待ち合わせの場所で修平は驚く。
あの頃となんら変わらない美菜子の姿があった。
この間は夜の店だったし気づかなかったが
奈美子は修平より二つ年上。
もう50歳にも近いはずだがとてもそうには見えない。
どう見てもまだ30代の肌艶だ。
「どこ行こうか?」
「ねぇ、あそこのすし屋にいこ。大将元気かな?」
奈美子に言われて思い出した。
そういえば別れてからほとんど顔を出していない。
久しぶりに悪くないと修平は思った。
店に入ると大将は一瞬驚いた顔を見せたが
何もなかったようにあの頃の顔に戻った。
さすが、職人だ。
ビールで乾杯して玉子焼きをつまむ。
「あの頃と変わらないな」
「私?変わったわよ、かなり」
「そうには見えない」
「色々あったのよ」
「そうなんだ」
それ以上聞くのはよした。
「あなたは?まだ奥さんと一緒にいるの?」
「あぁ」
「あなたは何にも変わってない」
そう言ってケラケラ笑う。
女房と別れて奈美子と一緒になろうとも思ったが
踏ん切りがつかなかったのが別れた理由だった。
「そうだ、大将、穴子、穴子を握って」
奈美子が突然言い出す。
修平は思い出した。ここの穴子が絶品だったことを。
「んー、美味しい。やっぱり大将の穴子が好き。
大将の穴子も全然変わってない」
奈美子はそう言って首をすくめた。
奈美子がこの街に帰ってきたのは
この店の穴子を食べたかったのか
それとも修平とやり直したっかたのかは定かではない。
偶然か必然なのか。
修平は穴子を焼いた香ばしい香りの中で
ぼんやり考えていた。
すし屋のカウンターには変わらない何かがある。
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2012年6月28日 | カテゴリー:ブログ, 小さな寿司のストーリー |
