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海老

久しぶりに妹の留美と会う事になった。お互い休みが違うので、社会人になってからは、ほとんど会う時間が取れない。いや、取ろうとも思わなかったのだけど。

駅の改札で待ち合わせて歩き出した。よく考えたら、全くのノープラン。少し早いが軽く飲んで食事でもという事になった。

もうすぐ夏至なので、まだ太陽は高い。ふと見ると暖簾がかかった寿司屋を見つけた。

まだ20代と30を過ぎたばかりの女の客が珍しかったのだろう。大将は一瞬戸惑いを見せたが、カウンターにと促された。

生ビールを頼み乾杯する。確か、留美はあまり飲めないはずだ。

「母さん元気?」

「うん、元気にしてるよ。彼方此方、痛いって言ってるけどね」

大学の頃から家を出て、就職は地元近くに帰ってきたが、敢えて一人暮らしをしていた。

「由奈ちゃんは仕事、順調なの?母さん、いつも心配してる」

母の事が嫌いなわけじゃない。一度は故郷を捨てて出てったのだから、家には帰りたくないと思っただけだった。それに大好きだった父も愛猫のタマももう居ない。あの頃の家とは違う気がしていた。

「そういえば、ウチは寿司率高かったよね」

「そうね、父さんがお寿司大好きだったからね。何かあれば、すぐ寿司の出前をとってさ。そういえば、香寿司の大将、元気?」

「去年、お店、閉めちゃった。脳梗塞になったらしくて、お寿司握れなくなったんだって」

「そうなんだ。子供の頃は父さんによく連れてってもらったね」

「私はあんまり行った事ないけど」

無類の寿司好きだった父。正月、誕生日、入学、卒業、クリスマス。いつも寿司があった。でもクリスマスは肉とケーキが食べたかったのが本音だ。

「よく、留美ちゃんと海老の取り合いしたよね」

「そうだったね。由奈ちゃんの海老、欲しくて」

久しぶりに留美の笑顔を見た。久しく会ってなかったし、LINEで6年付き合った彼と別れたと知ってたから。

生ビールからワインに変わっていた。寿司屋にしては珍しいブルゴーニュのピノノワールが置いてあった。

留美はグラスに少しだけ飲んで、残りは1人でボトルを空けた。

最後に少し握ってもらって店を出た。

「由奈ちゃん、そんなに飲んで大丈夫?」

「大丈夫。酒の強さは父さん譲り」

「私は飲めない母さんの血を引いた」

空を見上げたら、まだ明るい。西の空が茜色だった。

「ところで留美ちゃん、なんで海老が好きだったの?」

「なんでだろ。味が特別好きなわけじゃなし、多分、色が赤いから。女の子の色じゃん」

「えー、それだけ?」

なんだか、笑えた。学生時代は不登校だった妹とこうして一緒に寿司を食べて酒を飲めた。

もしかしたら、いろんな出来事って時が解決してくれるのかもしれない。

海老の寿司を横取りした時の留美の笑顔と今日の笑顔は同じような気がした。

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