挑戦か友情か。
何年ぶりだったろう。
学生時代の友人から連絡があったのは。
06年の夏の初めだった。
香港で立ち上げた事業が順調で手が足りないという。
「お前の力が必要なんだ」
聞いたことがない声色だった。
当時は、攣るんではいたけれど親友と呼べるものでもなかった。
全てにおいて奴の方が上だったし、良くもてた。
これは僕の主観だ。
いつも奴と比べられた。
皆がどっちを評価していたのか今では知る由も無い。
それでも久しぶりの電話に胸が高鳴った。
勤めていた会社もいい加減、嫌気がさしていたし
3年半付き合った恋人とも別れたばかりだった。
けれど、踏ん切りがつかなかった。
その年の安田記念。
出馬表を見たら香港から3頭の馬が出走していた。
異国の競馬に挑戦状を叩きつける
その想いに共感が持てた。
梅雨に入っていたのかそうでなかったのか。
記憶には無いが快晴ではなかったと思う。
気がつけば府中に来ていた。
18頭がスタートを切っていたけどあまり憶えていない。
ただ考えていたのは今後の自分の身の振り方だった。
ターフに目をやると馬たちが
隊列を縮めながら4コーナーを周ってくる。
そして直線を向くと1頭が抜けてきた。
香港のブリッシュラックだった。
1頭だけ自分を主張するように先頭に踊り出る。
まるで矢印の矛先みたいに見えた。
そのままブリッシュラックはゴール板を駆け抜けた。
3着に入ったのも香港馬のジョイフルウィナーだった。
その時、結論が出た。
「よし、やってやろう」
思わず口に出た言葉だ。
異国の日本に挑戦状を叩きつけた馬が勝ったのだ。
思わず、奴と僕にその姿を投影した。
ブリッシュラックが、僕なのか奴なのか
そんなことはどうでもいい。
あいつの笑顔を久しぶりに見たいと思った。
会社も恋人も僕を必要としていないなら
友情という魔法にかかったほうがマシだ。
例え、騙されていようとも。
G1 安田記念
6月5日(日) 東京競馬場 芝1600m